金銭状況がよくない人が刑事事件を起こしたとき、どのような刑罰を科すことができるのでしょうか。ロシアでは2017年までは、金銭状況がよくない人に罰金を科すことは不適切なのではないかという議論が実務的になされていたのですが、2017年に出された裁判所の判断でどのような扱いをすべきかという点がはっきりしました。
そこで、今回はこの2017年に起きた事案を紹介したいと思います。
ある男性は金銭的に困窮している中、お店に入り、店内にあった5,702ルーブル(約1万円)分の商品を盗みました。
第1審は、男性の財産状況や収入の有無に関わらず、刑事罰は免れない状況であると判断し、ロシア刑法(Уголовный Кодекс РФ)第1章161条 に基づき「2年の懲役刑」を下しました。
これに対し、男性は控訴しました。
控訴審では、第1審の判断は取り消され、男性の財産状況や収入の有無に関わらず「10,000ルーブルの法廷罰金(Судебный штраф)」を言い渡しました。具体的な判断過程として、控訴審は、刑罰を決めるに際して、行為態様、犯罪の性質、公共の危険性の程度、被告人の性格を勘案すべきであるとの判断基準を示したうえで、今回の男性が行った窃盗は中間程度の危険性しかなく、初犯であることも考慮すると、法廷罰金が相当であると判断したのです。
なお、この法廷罰金は刑事罰としての罰金とは異なるものなので注意が必要です。刑事罰としての罰金であれば、支払いをした場合であっても前科として罪を犯したこと自体は記録に残るのですが、法廷罰金であれば、被害金額を弁償するとともに、支払いを命じられた法廷罰金を政府に支払えば、前科としての記録が残らない種類の罰金です。
ポイントとしては、2017年のこの事案までは、金銭状況がよくない人に罰金、なかでも法廷罰金を科すことは不適切なのではないかという議論が実務的になされていたのですが、ロシアの最高裁が2019年7月10日に承認した調査結果によると、上記裁判所の判断により、財産状況や収入の有無に関わらず、法廷罰金を科すことは可能であることが明らかになりました。
そのうえで、財産状況や収入の有無はあくまで、法廷罰金の具体的な額で調整をする際の考慮要素という位置づけとなったといえます。
参考
http://vsrf.ru/documents/all/28088/
http://www.consultant.ru/document/cons_doc_LAW_10699/8727611b42df79f2b3ef8d2f3b68fea711ed0c7a/
https://ogtrk.ru/material.php?id=52360