労働者は雇用契約に基づき自分の働いた対価として給料を得る権利を有します。もっとも、仕事をした労働者が給料を得る権利を取得しても、実際に使用者がその支払いをしてくれなければ、労働者のかかる権利は実現されたことになりません。
今回は、ロシア法において、仕事をした労働者に使用者が給料を支払わない場合、どのような法律関係が労働者・使用者間で発生するのかを紹介したいと思います。
労働者側の視点
ロシア労働法(Трудового кодекса РФ)352条によると、労働者はその権利が侵害された場合、法律で規定されたあらゆる手段を用いてその権利を守ることができることが規定されています。そのため、基本的には裁判等によりその権利を実現することが可能ということになります。
もっとも、支払いがなされていない状況で、仕事を継続しなければならないとなると、労働者はあまりにも不利な立場に立たされてしまいます。
そこで、ロシア労働法142条においては、15日より長い期間に渡り、使用者が給料や労働の対価を支払わなかった場合には、労働者は書面で使用者に対し、自分が仕事を一時停止する旨を通知する権利を有していると規定されており、かかる通知をすれば、労働者は給料が支払われるまでの間、仕事を停止することができます。
なお、すべての労働者が、このように仕事の一時停止ができるわけではなく、一定の「労働者」、例えば一例として、軍事関係の仕事に従事している者などにはこの権利は認められていません。
使用者側の視点
ロシア労働法81条6項(a)においては、正当な理由なく1日連続4時間職場に無断欠勤した場合には、労働者を解雇することができるとの規定があります。しかし、これはあくまで使用者が給料を支払っている場合に行使できる権利にすぎないので、給料の支払いを怠っている使用者がこの規定に基づき解雇をしてしまうと不当解雇となるので注意が必要です。
もっとも、給料の支払いをすればこの規定に基づき適法に解雇することができます。
そして、使用者が給料を支払った翌日から労働者は職場に復帰しなければ、無断欠勤に該当してしまうので、実務的には、使用者は給料を支払ったうえで、給料の支払いをした翌日、4時間連続で無断欠勤した労働者を解雇したりすることがあります。
そのため、労働者はいつ使用者側が給料の支払いを行ったかには敏感にならないと、気付かぬうちに適法に解雇されてしまう可能性があるので気を付ける必要があります。
メモ
日本とロシアの労働法を比較すると、日本は労働基準法などで権利を抽象的に規定したうえで、具体的な権利は就業規則や労働契約等に委ねることが多いのに比べ、ロシアではそもそもの法律に具体的な日数や時間などが規定されている場合が多い印象を受けます。
日本でも、強行法規として機能する条文が複数存在しますが、ロシアでビジネスを展開する場合にも、就業規則等が労働法に違反していないかを分析する必要が特にあるものと思われます。