ロシアにおける年次有給休暇の付与 〜日本の働き方改革関連法と比較しながら〜

 日本においては、2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行されており、年次有給休暇(年休)に関しても改正がなされました。
 そこで、今回は日本における年休に関連する改正の概要を紹介するとともに、ロシアの年休事情について紹介をしたいと思います。

日本における年次有給休暇関連の法改正

 まず、日本における年休に関連する改正の概要から説明をしたいと思います。
 年休に関する改正前は、労働者が自ら年休の取得の申出をしなければいけない建付けとなっていたので、労働者が遠慮して年休を取得したい旨の申出をしないなどといった事情から、日本での年休取得率はわずか49.4%でした。
 そこで、2019年4月1日から施行された改正のねらいは、年休の確実な取得にあり、使用者は、10日以上の年休が付与される全ての労働者に対し、毎年5日、時季を指定して有給休暇を与えることが必要となりました。つまり、今まで使用者は、労働者が年休の取得の申出をして年休に関する判断をすればよかったにもかかわらず、今回の改正により、労働者の申出に関わらず、使用者が労働者に年休の取得時季の希望を聴取し、その希望を踏まえて使用者が取得時季を指定することが必要となったのです。
 使用者が労働者に対し、年5日の年休を取得させなかった場合には、労働基準法120条により、30万円以下の罰金の対象となる可能性があるので気を付ける必要があります。

ロシアの年次有給休暇

 では、ロシアの年休事情はどうなっているのでしょうか。
 まず、ロシア労働法(Трудовой Кодекс РФ)115条によると、労働者は原則、1年で28日の有給を取得することが権利として与えられています。これは1ヶ月で約2.33日分の有給が取得できるという計算となります(12×2.33=27.96)。そして、1ヶ月分の年休取得分の約2.33日を取得するには、その1ヶ月で15日以上勤務する必要があります。
 つまり、1年間働いていた労働者が、そのうち例えば4月には10日間のみ勤務したという場合には、1年間で取得できる年休は法律上、26日となります(11×2.33=25.63)。
 なお、一定の有害・危険な職種についている労働者は、上述の有給よりも多くの有給取得をすることが例外として規定されています。

年次有給休暇は誰が取得できる?

 次に、年休取得の対象者はどのような労働者なのでしょうか。
 ロシアにおいて年休取得の対象となる労働者はロシア労働法122条によると、6か月以上働いた労働者ということが規定されています。そして、上述のとおり、1か月働いたと認定されるためには、1か月で15日以上勤務する必要があるので、年休取得の対象となる労働者は、6か月以上継続してそれぞれの月で15日以上勤務という一定日数以上の出勤基準を満たしている労働者が対象となっているといえます。もちろん、これはあくまで最低ラインを規定しているにすぎないので、たとえば使用者と労働者の合意で6か月よりも短い期間しか雇用されていない状況にある労働者も年休取得の対象として含めたりすることは可能です。
 なお、日本ではパートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者に対する年休の付与に関し別途異なる取扱いがなされていたりしますが、基本的には、労働基準法において、(1)雇入れの日から6か月継続して雇われていること(2)全労働日の8割以上出勤していること、の要件を満たせば年休を取得することができます。
 労働期間と出勤日数という視点から年休取得対象者を決めている点で、ロシアも日本も類似しているといえるのではないでしょうか。

年次有給休暇取得の態様

 ロシアの有給取得の方法には特徴があり、ロシア労働法125条によると、取得した有給は分割して消化することができるのですが、消化する際には必ずそのうちの1つの有給が14日以上の日数でなければならないと規定されています。つまり、2~3日程度の短い期間に分割してすべての年休を消化することを法律は認めていないということがいえます。
 なお、日本では、このような年休取得の特徴、つまり、1つの年休が14日以上といったある程度まとまった日数のものである必要があることは求められていないので、これはロシアの特徴といえるのではないでしょうか。

(次に続きます)