労働関係における従業員の引き抜きに関して、日本では様々な議論がなされているのと同様に、ロシアにおいても従業員の引き抜きが問題となることがあります。
そこで、今回は、ロシアにおける従業員の引き抜きに関する最近の事案(ДЕВЯТЫЙ АРБИТРАЖНЫЙ АПЕЛЛЯЦИОННЫЙ СУД №09АП-62187/2019-ГК)を紹介したいと思います。
事案の概要
この事案においては、従業員の引き抜きを禁止するような内容の条項を設けたうえで、コンサル会社はA社を相手にコンサル業務を行っていました。この従業員引き抜きの禁止条項は、コンサル業務中およびコンサル業務終了後12カ月の間、A社がコンサル会社の従業員を自社で雇うことを禁止する内容の条項でした。
もっとも、A社に対するコンサル業務の提供が終了すると、このコンサル業務に携わっていたコンサル会社の従業員24人全員が、A社に転職をしたのです。
そこで、コンサル会社は、A社が従業員引き抜き禁止条項に違反して従業員の引き抜き行為をしたとして、A社に対し、損害賠償請求をしました。
裁判の状況
1審においては、コンサル会社が勝訴し、40,900,000ルーブル(約6,135万円)の損害賠償が認められました。もっとも、A社がこれに対し、控訴しました。
2審においては、今回の従業員引き抜き禁止条項は、ロシア憲法(Конституция Российской Федерации)37条およびロシア労働法(Трудовой кодекс Российской Федерации)3条に規定されている職業選択の事由に違反するとともに、ロシア労働法64条に違反するとして、1審とは逆の判断をしました。ロシア労働法64条には、労働者の仕事の能力以外を理由として、使用者は従業員の雇用を拒否してはならないとの内容が規定されています。
今回の事案において、2審が重きを置いた事実としては、A社が従業員らに対して、何ら働きかけを行っていないこと、A社には従業員らを受け入れる空きがあったこと、従業員らはA社での仕事内容をこなすのにピッタリの能力を有していたことが上げられており、これらの事実がある以上、上記憲法3条、労働法3条、64条違反が認められたのです。
もっとも、この2審はまだ確定しておらず、コンサル会社がさらに上告をしているので、今後の展開から目が離せません。
参考
http://www.consultant.ru/document/cons_doc_LAW_28399/5e37b9644c66582efdaf762a109a281bf999c28d/
http://www.consultant.ru/document/cons_doc_LAW_34683/0d18caafb87d28222d0cb617c21634cc407ee0f5/
http://www.consultant.ru/document/cons_doc_LAW_34683/f9ccec223c774c4895b03311bcd7eb355ef9d78f/