最近、多くの仕事形態が社会の中で見受けられ、家からのテレワークも昔と比べて少しずつ普及していきている印象を受けます。もっとも、このテレワークを巡りロシアでは2019年4月4日に興味深い裁判例が出たので、今回はこの事案を紹介したいと思います(Апелляционное определение Московского городского суда от 04.04.2019 N33-1469/2019)。
リモートワークを会社が妨害
ある女性はパソコンやメールを活用して、フレックスタイム制で家から仕事をしていました。会社も当初はこのようなテレワークでの仕事を容認していたものの、突如、仕事の効率を上げるという名目で、女性にアシスタントを1人付け、女性とそのアシスタントから成る部署を新設したうえ、業務内容は変わらないにもかかわらず、女性が本部に来て、仕事をするよう要請しました。それと同時に、女性との間の労働契約に記載されていたテレワークを許容する条項を一方的に削除しました。
女性は週5日、12時から17時に本部に来て仕事をするか、仕事をやめるかの選択を会社から迫られたのです。これに対し、女性は賛成をしなかったので、解雇されました。そこで、かかる会社の対応に不満を持った女性は裁判所に提訴しました。
裁判所の判断
裁判の判断は、女性に有利なものであり、女性は従前のとおりテレワークで業務を継続する地位があることが確認されました。裁判所の判断で決め手となったのは、女性の業務内容がオフィスに行かなければできないような内容のものではなく、会社の組織改編という目的が証拠上認められない以上、職場に彼女がいなければいけないことについて会社が十分に立証したとは評価できない点にありました。
裁判所の判断を分析するに、ロシアの労働法(Трудовой Кодекс РФ)74条によると、組織・技術の変化に伴って、労働者の業務内容を変更をしない限度で会社は労働条件を一方的に変更することができることが規定されています。会社は、かかる一方的な変更を行う場合には2ヵ月前に書面で変更内容の通知を労働者に対してすることが求められています。また、かかる変更に賛同しない労働者がいた場合には、会社側は別の類似の仕事をかかる労働者に対して提供するように努めることが求められています。そして、類似の仕事を示す際には、現在の場所での仕事を優先的に示すとともに、別の場所での仕事の空き状況も提供することが求められています。それでも、労働者が労働条件の変更を拒む場合に初めて労働法77条7号によりその労働者を解雇することができるのです。
つまり、今回の裁判例では、そもそも会社が労働者の労働条件を一方的に変更をする基礎となる「組織・技術の変化」という事情が存在しないと判断したということになります。
就業規則ならともかく、労働条件を一方的に変更するという点は日本法の観点からなじみがないものといえますが、労働者を容易に解雇することができないという点では、日本法との共通点を見出すことができるのではないでしょうか。