ロシアの労働法(Трудовой Кодекс Российской Федерации)では、192条5項において、処分の可否、訓告・解雇の処分選択は、問題行為の軽重に相応でなければならず、その判断にあたっては、問題行為の深刻さ、対象従業員の勤務態度等を考慮要素として判断することが規定されています。そのうえで、81条1項6号においては、重大な職務違反の場合には一回であっても解雇事由となることが規定されており、同号(а)においては、「正当な理由がない職場不在」が列挙されています。ロシアの労働法では「一回」の違反ですら解雇事由となると明記されており、日本では違反の回数について条文上明確にされていないことと対照的です。
2019年7月1日付ロシア連邦最高裁判所判決(No. 5 -КГ19-81)において、不当解雇に関し、上記2つの条項が問題となった興味深い最高裁判所の判断が示されました。
事案の概要
この事案はロシアのモスクワで、郵便局で働く女性が不当解雇されたとして最高裁判所まで争った事案です。
女性が一緒に生活をしている姉の子供がホッケーの練習をしている最中に、鼻の骨を折ってしまい、急遽、病院にその子を連れていくために、会社に1日の有給を申請し、仕事を1日休みました。もっとも、有給の申請の際に女性は次長に対してSMSを送信する方法により行い、かかる有給申請の際に女性は別の同僚に自分のシフトをカバーしてもらうように要請までして行ったものの、次長はSMSでの返信に対して有給を許可をしなかったというものでした。そこで、女性はなすすべなく、許可を得ることなく、無断で仕事を1日休んだとして、解雇処分がなされたという事案です。
最高裁判所は、次のような興味深い判断をして、下級審の判断を正面からひっくり返しました。
下級審の判断
女性が正当な理由なく会社を無断で休んだとして、解雇した会社側に有利な判断をしました。たしかに女性は子供を病院に連れて行った際に受け取った子供の怪我の診断書を裁判所に提出し、病院に行ったことは証明できているが、そもそも自分の子供でもない親戚の子供を病院にその女性が連れていく必要性があったとは認められず、何より、女性が会社の許可を得ずに休んだということを重視して、「正当な理由」(81条1項6号(а))について女性が十分に立証をできていないとしてかかる判断がなされました。
ロシア連邦最高裁判所の判断
下級審が「正当な理由」の立証責任を従業員に課している点で不当であり、「正当な理由」がないことを会社側が立証すべきであることを指摘しました。そのうえで、192条5項を引用したうえで、従業員に対する処分は行為の重大性、行為が行われた背景事情等を総合考慮して行うべきであることを示し、本事案においては、かかる立証を会社は十分に行っていないとして、81条1項6号(а)に該当する事由が立証されていない以上、女性を解雇したことは不当解雇にあたるとして、解雇された女性側に有利な判断をしました。
ポイント
要するに、日本においても裁判をする際に、立証責任がどちらの当事者にあるかが重視されるが、ロシアでもその点は同様であり、労働法の81条1項6号(а)の「正当な理由」に関していえば、かかる要件の立証責任はあくまで従業員側にではなく、会社側にあるということが最高裁判所では重視されたのです。