民事訴訟の目的

民事訴訟法という科目

 「民事訴訟法」という科目は、全体的に学術的な面が強いです。本来、法科大学院や司法研修所で習得する要件事実論こそが民事訴訟法なのではないかというのが率直なところですが、それらは「民事実務」と呼ばれ、民事訴訟法とある種切り離されて位置づけられています。実際に法科大学院でも、民事訴訟法の教授の方々が要件事実論を教える機会はなく、実務家教員として招聘された弁護士や裁判官が指導の役割を担うことが多くなっています。

 その結果として、他のどの科目よりも学術的色彩が強いのが民事訴訟法なのです(もちろん、他の科目における学術的な議論の重要性を否定したいわけではありません)。

 要件事実論を理解した方が、民事訴訟法の勉強も、ひいては民法の勉強も理解しやすいため、私の解説においては要件事実についても詳しく説明しながら進めていきますが、だからといって学術的側面を無視することは望ましくありませんから、両面からアプローチして、しっかりと民事訴訟法を理解できるようにしたいと考えています。

3つの学説

 一般的に、民事訴訟の目的論としては、①権利保護説、②私法秩序維持説、③紛争解決説という3つの学説があります。この他に、④多元説と⑤手続保障説が加わって5つ主なものがあるという説明をされることもあると思いますが、まずは①〜③の3つを理解しておけばいいと思います。

権利保護説

 権利保護説とは、国家が私人に自力救済を禁止する代償として、権利保護のために民事訴訟制度を設けるという立場です。

私法秩序維持説

 私法秩序維持説とは、民法等の実体法が形作る私法秩序の実効性を確保するために民事訴訟を設けるという立場です。

紛争解決説

 紛争解決説とは、民事訴訟の目的を端的に私的紛争の解決にあるととらえ、紛争解決のために権利や法律が整備されてきたと考える立場です。

最終的には棚上げ

 兼子一教授の昭和22年論文以来、紛争解決説が主流で、三日月章教授、新堂教授も紛争解決説の流れに位置してきました。もっとも、それぞれの考える紛争解決説には、基本的なスタンスや細かい帰結で違いもありました。ですから、高橋宏志先生は、目的論に一定の意味を見出しつつも、その意義は従来考えられていたほどではなさそうということで、ひとまず棚上げにする立場をとっている。

 民事訴訟学界の重鎮でさえ、目的論については棚上げにしながら各論点について詳細な検討を進めることができているところ、我々としてもひとまずは、それぞれの議論の立場を念頭に置きつつ、いずれかの立場に固執するということまでは必要ないものと思われます。