支払督促の運用

 我が国の制度においては、債権者にとって、給付の訴えを提起して訴訟手続を経て判決を得るのと比べて、より容易かつ迅速な方法で債務名義を得られる手段として、「支払督促」という制度が存在します。

 そこで、今回は、この支払督促の制度の中でも「支払督促の申立て」がいかなる場合にできるかをご紹介をしたいと思います。

1.支払督促制度

 支払督促(民事訴訟法382条~402条)とは、金銭その他の代替物または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について、債権者の申立てにより、簡易裁判所の裁判所書記官が支払督促を発し、仮執行宣言を付することにより、簡易・迅速に債権者に債務名義を取得させる手続となっています(三木浩一他著「民事訴訟法 第2版」659頁(有斐閣、2015))。

2.支払督促の申立要件

 支払督促の申立要件は、382条に規定されています。

 同条本文によると、支払督促の対象となるのは「金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」に限られています。なお、請求の目的の価額には上限はないとされています(三木浩一他著「民事訴訟法 第2版」660頁(有斐閣、2015))。

 また、支払督促の対象以外にも、送達の方法に関連する要件があります。

 同条ただし書により「日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る」とされているので、支払督促を利用できるのは、通常送達(103条1項)、就業場所送達(103条2項)、補充送達(106条1項)あるいは付郵便送達(107条、別名「書留送達」)の方法により送達ができるとき、ということになります。

 つまり、相手方の住所や居所、勤務先が判明していない場合には、支払督促は用いることはできないということになります。

 そのうえで、支払督促の申立ては、383条1項により、「債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対してする」こと、とされています。

3.支払督促の申立て却下

 なお、「支払督促の申立てが第382条若しくは第383条の規定に違反するとき、又は申立ての趣旨から請求に理由がないことが明らかなときは、その申立てを却下しなければならない」と385条1項前段に規定されていることから、支払督促の申立てをする前に要件充足性を検討することが重要となってきます。