自分が買った商品に不備があったとき、その商品を返品したいと思うことはよくありますよね。もちろん、ロシアでも瑕疵ある商品は返品の対象となる規定が存在します。もっとも、日本でもそうですが、果たして本当に「瑕疵」があったのかという点は、裁判でよく争点になります。今回は、この「瑕疵」の有無を巡って争いが生じた事案(Определение Верховного Суда РФ от 21.06.2016 N16-КГ 16-19)を紹介したいと思います。
事案の概要
ある男性は新しい自動車を購入したにもかかわらず、購入して最初の1年で11回も車が故障し、毎回違う部品(例えば、発電機、ギア等)が壊れる状況が発生しました。男性は毎回修理のために売主に自動車を預けた結果、自動車が修理に供され、男性が車を使用することができなかった期間は合計すると1年で30日間以上にも上りました。なお、この自動車には3年の経過あるいは50,000kmの走行距離の超過のいずれかの要件を充たすまで保証が付されていました。
頻繁に壊れる自動車に限界を感じた男性は、自動車を返品しようと、売主に交渉を持ちかけましたが、かかる交渉はあえなく売主に拒否されてしまいました。
そこで、男性は、契約を解除したうえで、売主に対して、元金の返還、保険料の返還、車購入にあたっての借入金に対する利息及び慰謝料等を請求するために、裁判所に提訴しました。
ポイント・争点
この事案のポイントは最高裁が男性の請求の法的根拠となったロシアの消費者保護法(Закон ≪О защите прав потребителей≫)18条の解釈を明らかにした点にあります。消費者保護法18条によると、購入した商品に「瑕疵」がある場合には、商品の減額、商品を返還したうえで代金全額の返還又は同種の商品の交付を求めることができます。また、「瑕疵」といえるためには、条文において「保証に付されている期間、故障で使えない日が合計毎年30日間以上に上る必要がある」と規定されており、今回の事案はこの条文の解釈が争点となったのです。
原審の判断
原審は、本件の自動車は3年間の保証が付いている以上、毎年30日間以上の故障ということがあって初めて車に瑕疵があるといえると判断し、今回はまだ1年しか経っていない以上、「毎年」30日間以上の故障という要件を充足しないため、本件の自動車には瑕疵がそもそもないと判断しました。また、故障している部品は毎回異なる以上、それぞれの部品の故障がそれぞれ瑕疵を構成すると判断し、「30日間」の故障という日数を充足しない点からも、自動車には瑕疵がないとして、男性の請求を全部棄却しました。
最高裁の判断
もっとも、最高裁の判断はこの原審の判断とは真っ向から異なり、原審の判断は18条の解釈を誤ったものであると断言し、控訴審に事案を差し戻しました。
まず、18条の条文は3年保証があるとしても3年間、毎年30日間以上の故障が認められて初めて瑕疵がというわけではなく、3年のうちどの年でも30日間以上の故障が認められれば瑕疵があると解釈すべき条文であることを明言しました。そのうえで、様々な部品の故障であっても、全体として1個の自動車の瑕疵と認められる以上、自動車に1年間で30日間以上の故障が認められる本件で、瑕疵がないとした原審の判断は間違っていると判断しました。
分析
条文を形式的に適用すると、原審の判断が導かれるのですが、消費者保護という趣旨を考慮し、最高裁は条文の文言を限定解釈したと私は分析します。日本でも条文の限定解釈は条文の趣旨を考慮して行われたりすることがありますが、実はロシアにおいてもこのような限定解釈は行われているという点において日本法とロシア法の共通点を見出すことができる点は興味深いと思います。
参考
http://www.consultant.ru/document/cons_doc_LAW_305/76ae101b731ecc22467fd9f1f14cb9e2b8799026/