従業員に対する責任追及

事業を経営していく中で、事業が大きくなればなるほど、従業員は不可欠な存在となります。今回は、ある個人経営者が従業員に対して責任追及を試みたロシアの最高裁の事案(Определение Верховного Суда РФ от 20.08 2018 N18-КГ 18-126)について紹介したいと思います。

事案の概要

ある個人経営者は自分の商品を保管している倉庫の中身を確認したところ、商品が不足していることに気が付きました。そこで、従業員に倉庫内のチェックを依頼したところ、350,000ルーブル(約50万円)の商品の不足が確認されました。この個人経営者は従業員のチェックを再確認する意味で、第三者機関にチェックを依頼したところ、800,000ルーブル(約135万円)の商品の不足が確認されました。
そこで、この個人経営者は商品の受け取り行ったとされるレジ受けの従業員に対して、商品の不足分を補填するよう求めました。もっとも、従業員は支払いを拒否したため、この個人経営者は裁判所で請求を認めてもらえるように提訴しました。

最高裁判所の判断

原審は、個人経営者の請求を認容する判決を下したのに対し、最高裁は原審の判断をひっくり返しました。その内容は、要約すると以下のようなものとなります。
まず、従業員と個人経営者との間には、従業員に対して責任追及を可能とする規定が今回は存在していない以上、従業員が負う責任はロシア労働法により、かかる従業員の平均的な1か月の給料に限定されます。完全な責任を問うためには、従業員と個人経営者との間に特別規定があるか、従業員が悪意あるいは故意で個人経営者に対して損害を与えた等の事情が必要となります。もっとも、今回は、従業員が悪意あるいは故意で個人経営者に対して損害を与えた等といった事情は証明されていません。
また、他の従業員もこの店舗では働いており、それらの従業員に対しても倉庫の鍵が与えられていた事情があることを考慮すると、商品の受け取りを行ったとされるレジ受けの従業員一人に対してのみ全額の完全な責任追及するのは理不尽だと判断されました。
そのうえで、原審は、在庫のチェックが適切になされていたかの事実認定が不足していることに言及をし、最高裁はこの事案を原審に差し戻しました。最高裁としては、個人経営者は、警察にも通報をしているにもかかわらず、かかる事案を警察が事件として扱わなかったことについては何か特別な理由があるのではないかと考え、どうして警察が事案を事件として扱わなかったかの理由を原審は確認すべきであったとしたのです。

ポイント

従業員の不祥事は必ず自分の会社では起きないと安易に高を括ることは不適切です。もし不祥事が起きた場合、かかる従業員に対して責任追及をしていきたい場合には、契約書ではっきりと責任内容を規定しておくことが重要となります。日本でも、従業員の不祥事で悪質なケースは不法行為責任の追及といった方法で、契約書に明確な規定がなくても責任追及が可能となるケースはありますが、確実に責任追及をするのであれば不法行為責任の追及だけでなく、契約違反、つまり債務不履行が問える道も残すような契約を従業員との間で締結することが無難であるといえるでしょう。

参考

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