時効の効果を発生させるためには援用が必要になりますが、とある者が取得時効の期間を経過して目的物を占有していたものの、時効の援用をせずに死亡し、その相続人に相続された場合、相続人は時効を援用することができるか、問題になります。
もし、相続人が一人であれば、被相続人(時効取得者)の地位を包括的に承継することになりますから、その相続人は当然に、被相続人が完成させた取得時効を援用することができます。
他方で、相続人が複数である場合はどうなるのでしょうか。
これについて、判例(最判平成13.7.10)は、「時効の完成により利益を受ける者は自己が直接に受けるべき利益の存する限度で時効を援用することができるものと解すべきであって、被相続人の占有により取得時効が完成した場合において、その共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができるにすぎない」としています。
したがって、被相続人の占有により不動産の取得時効が完成した場合、その共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができます。