外為法改正(2020年6月7日全面適用)

 2019年11月29日付けで外国為替及び外国貿易法(以下、「外為法」という。)の一部を改正する法律が公布され 、2020年5月8日から同法は施行されました1http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DCE0FA.htm。そのうえで、2020年6月7日以降は改正後の法令が適用されています。また、同日付で2020年4月24日付けで閣議決定された外為法の関連政省令・告示改正も全面適用されています2https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/press_release/20200424.htm 。すでに適用が開始されてから数か月経過しており、多くの方が改正についてご存じかとは思いますが、今回はこの外為法改正に至った経緯及び改正の内容についてご紹介をしたいと思います。

1.外為法の概要及び今回の改正の背景

 外為法は、昭和24年12月1日付で施行され、その目的は、外為法第1条により、「外国為替、外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もって国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与すること」にあります。

 そのうえで、国内の規制緩和の流れ、国際金融のグローバル化、国際情勢の変化等の影響により幾重にもわたり改正がなされてきました3財務省ホームページ「外為法の目的と変遷」https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/gaitame/hensen.html

 特に、今回の改正に至ったのも、世界的に外国投資家に対する厳格な規制が取り入れられていることが契機として挙げられます4関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会 配布資料 「対内直接投資審査制度について」令和元年10月8日財務省国際局作https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/customs_foreign_exchange/sub-foreign_exchange/proceedings/material/gai20191008/02.pdf。中でも今回の改正に大きな影響を与えたのが(1)2018年8月に米国で成立した新法である外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)が成立したこと及び(2)2019年3月に欧州理事会において「EUに対する直接投資の審査制度を設立するためのEU規則」の承認がなされたことが挙げられるのではないでしょうか5注記4の配布資料P2、P5。というのも、欧米が安全保障の観点から投資強化を行うことにより海外投資家がより規制の緩い国へと投資をシフトすることは十分想定されます。そんな中、日本の規制が緩いと海外投資家の多くが日本に機微技術獲得のための投資に集まり、海外投資家の抜け穴となってしまう懸念もあり、今回の改正はこのような懸念が背景にあるのではないかと分析がなされています6CISTEC Journal 2019.11 No.184 http://www.cistec.or.jp/publication/journal_mokuji/1911-02_tokusyuu01.pdf

2.今回の外為法改正に至るまでの一連の規制強化

 実のところ、今回の改正に至る前から、海外投資家に対する規制が強化の流れはありました。その主な規制強化の一環として2019年8月に施行された指定業種の対象追加及び2019年10月に施行された対内直接投資規制の定義の拡大が挙げられます。

(1)指定業種の対象を追加 [5月告示改正、2019年8月1日施行]

 安全保障上重要な技術の流出や、日本の防衛生産・技術基盤の棄損など、日本における安全保障に重大な影響を及ぼす事態の発生の適切な防止という観点から、届出・審査対象の業種に、5月の告示改正によって、サイバーセキュリティ関連業種が追加されました。7関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会 配布資料 「対内直接投資審査制度について」令和元年8月22日財務省国際局作成 P4 https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/customs_foreign_exchange/sub-foreign_exchange/proceedings/material/gai20190822/06.pdf

(2)対内直接投資規制の定義拡大 [9月政令改正、2019年10月26日施行]

 外為法は、上場会社の発行済株式総数の10%以上の取得などを対内直接投資等として届出義務の対象としてきましたが、投資手法や経営への関与手法が多様化していることに対しては対応しきれていない部分がありました。具体的には、発行済株式総数の10%未満を保有する株主であっても、単独または他の株主の協力を得て、10%以上の議決権を行使することが十分に可能であったにもかかわらず、従前はこのような投資家を規制する手段は手薄になっていました。そこで、9月の政令改正では、株式の出資比率だけでなく、「議決権」も事前届出義務の有無の判断に使うことで、議決権を通じた海外投資家による会社支配の防止が図られました。8注記7の配布資料P5、P6

3.今回の外為法改正

 今回の外為法改正のポイントは、問題のない投資は一層促進した上で、国の安全等を損なうおそれのある投資に適切な対応をすることにあり9注記4の配布資料P7、その柱は(1)事前届出の対象の見直し、(2)事前届出免除制度の導入、(3)国内外の行政機関との情報連携の強化にあります。10財務省ホームページ「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案要綱」 https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/200diet/in20191018y.htm

(1)事前届出の対象の見直し

 改正前から外国投資家は日本の国益を守るため、一定の業種に対する対内直接投資は事前届出の対象となっていました11中崎隆「詳説 犯罪収益移転防止法・外為法(第4版)」326、327頁(中央経済社、2019)が、改正により、「対内直接投資等」「外国投資家」の定義の見直されたことで事前届出の対象に変更がありました。

「対内直接投資等」については、

ア)上場会社の株式・議決権取得の閾値が10%から1%(会社法上の株主総会における議題提案権の基準)に引き下げました。なお、株式・議決権の数を計算するに際しては、取得者の密接関係者の保有する株式・議決権数も合算します(外為法26条2項3号及び4号、対内直接投資等に関する政令2条7項ないし10項)。

イ)会社の事業目的の実質的な変更その他会社の経営に重要な影響を与える事項に関し行う同意において、外国投資家自ら又はその密接関係者が取締役・監査役に就任すること、及び指定業種に属する事業の譲渡・廃止を自ら提案し、同意することが追加されました(外為法26条2項5号、対内直接投資等に関する政令2条11項及び12項)。

ウ)法人の居住者からの事業の譲受け、吸収分割及び合併による事業の承継が追加されました(外為法26条2項8号)。

「外国投資家」については、

 投資組合等であって、非居住者である個人等による出資の金額の総組合員による出資の金額の総額に占める割合が100分の50以上に相当するもの等、という定義を追加しました。なお、かかる投資組合等は、組合名義で一本の事前届出のみを提出すれば足り、従前必要とされていた外国投資家である組合員の届出は不要となりました。(外為法26条1項4号、対内直接投資等に関する政令2条3項、主務省令2条2項ないし5項)

(2)事前届出免除制度の導入

 上場会社の株式・議決権取得の閾値を10%から1%に引き下げたことにより、事前届出の対象となる件数が現在の約8倍になることが懸念されたことから、事前届出件数の増加を回避する制度として事前届出免除制度が政令・告示において導入されました(外為法27条の2第1項、対内直接投資等に関する政令3条の2第1項及び2項、主務省令3条の2)。

 事前届出免除制度の場面では、大きく分けて3つ分類(包括免除・一般免除・免除利用不可)が可能となります。

包括免除

 日本において業法に基づき規制・監督を受けている、また、外国において日本の業法に準ずる法令に基づき規制・監督を受けている以上の業態の外国金融機関は包括免除の対象となります。具体的には、証券会社、銀行、保険会社、運用会社、運用型信託会社、登録投資法人(会社型投資信託等)、高速取引行為者がこの包括免除の対象となります。なお、高速取引行為者は、金融商品取引法上の高速取引行為者に限られ、それ以外の高速・高頻度取引行為を行う外国投資家は、他の一般投資家と同じく一般免除の対象となります(主務省令3条の2第4項)。

※取得が10%以上の場合には、投資後45日以内に事後報告が必要1210%以上の取得となる度に事後報告が必要となります。そのため、株式売却等で一旦閾値を割り込み、その後の再取得で当該閾値を再び超えた場合にも事後報告が必要となります。

一般免除

 一般投資家及び認証を受けたソブリン・ウェルス・ファンドや公的年金機関であれば、コア以外の指定業種13指定業種のうちコア業種の分野以外のものとは、(a)サイバーセキュリティ関連、電力業、ガス業、通信業、上下水業、鉄道業、石油業のうち指定業種のコア業種に当たらない部分、及び(b)熱供給業、放送業、旅客運送、生物学的製剤製造業、警備業、農林水産業、皮革関連、航空運輸、海運からなります。については、①外国投資家自ら又はその密接関係者が役員に就任しないこと、②指定業種に属する事業の譲渡・廃止を株主総会に自ら提案しないこと、③指定業種に属する事業に係る非公開の技術情報にアクセスしないことを遵守すれば、事前届出が免除されます。

また、コア業種14指定業種のうちコア業種の分野とは、(a)武器、航空機、原子力、宇宙関連、軍事転用可能な汎用品の製造業、(b)サイバーセキュリティ関連(サイバーセキュリティ関連サービス業、重要インフラのために特に設計されたプログラム等の提供に係るサービス業等)、(c)電⼒業(⼀般送配電事業者、送電事業者、発電事業者の⼀部)、(d)ガス業(⼀般・特定ガス導管事業者、ガス製造事業者、LPガス事業者の⼀部)、(e)通信業(電気通信事業者の⼀部)、(f)上⽔道業(⽔道事業者の⼀部、⽔道⽤⽔供給事業者の⼀部)、(g)鉄道業(鉄道事業者の⼀部)、及び(h)⽯油業(⽯油精製業、⽯油備蓄業、原油・天然ガス鉱業)からなります。なお、2020年6月15日に公布・施行され、同年7月15日に全面適用された医薬品・医療機器追加に係る改正告示により、感染症に対する医薬品(たとえば、感染症の治療薬・ワクチン等)に係る製造業及び高度管理医療機器(人口心肺、人工呼吸器等)に係る製造業がコア業種として追加で指定がなされました(関税・外国為替当審議会 外国為替等分科会 配布資料 対内直接投資審査制度:直近の動向について 令和2年6月26日 財務省国際局 https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/customs_foreign_exchange/sub-foreign_exchange/proceedings/material/gai20200626/04.pdf)に関しては、(i)コア業種に属する事業に関し、取締役会又は重要な意思決定権限を有する委員会に自ら参加しないこと、(ii)コア業種に属する事業に関し、取締役会等に期限を付して回答・行動を求めて書面で提案を行わないことを上記①~③の基準に上乗せして遵守をすれば、10%未満の取得については事前届出が免除されます。

※コア業種及びコア以外の指定業種のどちらについても、取得が1%以上の場合には、投資後45日以内に事後報告が必要15具体的には、(1)初めて1%以上となる際、(2)初めて3%となる際、及び(3)10%以上の取得の際はその都度、事後報告が必要となります。なお、(1)と(2)に関しては、株式売却等で一旦閾値を割り込み、その後の再取得で当該閾値を再び超えた場合は、事後報告は不要となります。

免除利用不可

 過去に外為法違反で処分を受けた者及び国有企業等(認証を受けたソブリン・ウェルス・ファンドや公的年金機関を除く)となります。

(3)国内外の行政機関との情報連携の強化

 外国執行当局に対し、その職務の遂行に資する情報の提供が可能となりました(外為法69条の3、69条の4第1項、2項)。

4.今回の外為法改正の補足(銘柄リスト)

 今回の外為法改正により事前届出の対象を検討する際には、指定業種の中でもコア業種に該当するのか、コア業種以外の指定業種に該当するのかの選別が導入されました。その結果、どのような会社が具体的にどのような種類に該当するのかということがわかるように、財務省は銘柄リストを発表しました。2020年10月24日現在においては、最新のリストは、同年7月10日付に発表されたものとなります16https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/press_release/20200710.html