生成AIと著作権に関する米国連邦地裁の判断(2025年6月23日)

ご存知のように、
2025年6月23日、米国連邦地方裁判所(District Court, N.D. California)が、生成AIと著作権に関する一部の争点について判断を下しました

これはSummary Judgmentを求める申立て(motion)に応じて出された判断であり、当該裁判の全ての手続が終了したことを意味するものではありません。
サマリージャッジメントは、連邦民事訴訟規則第56条に基づき、特定の争点について、裁判官が争いのない事実に法律を適用し判断を下す手続で、訴訟の早期解決や争点の整理を目的として行われます

事実関係・経緯

本件は2024年8月19日に、作家3名がAI企業を相手取って提起した訴訟です

大まかな時系列は次のとおり。

  • 2024年8月19日:訴訟提起
  • 2024年10月10日:初回ケースマネジメント会議
  • 2025年3月27日:フェアユースに関するサマリージャッジメントを求める申立て
  • 2025年6月23日:本件判断

最終的に判断の対象は、主に以下の3つに整理されました。
(1) AIモデル(LLM)を訓練するための複製行為がフェアユースか否か
(2) 中央ライブラリ構築のために、紙の書籍を合法的に購入し、スキャンしてデジタル化し(その後、物理的な書籍を破棄し)た行為がフェアユースか否か
(3) 中央ライブラリ構築のために非正規のウェブサイトから書籍データをダウンロードし保持した行為がフェアユースか否か

前提知識(米国著作権法のフェアユース)

フェアユースは、米国著作権法第107条に定められた、著作権の権利制限事由の1つです。特定の利用がフェアユースに該当するか否かは、以下の4つの要素を総合的に考慮して、個別に判断されます

① 利用の目的および性質(the purpose and character of the use)
② 著作物の性質(the nature of the copyrighted work)
③ 利用部分の量と実質性(the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole)
④ 市場・価値への影響(the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work)

本件判断でも、以上の4つの考慮要素からフェアユースの成否が検討されました

裁判所の判断

(1) AIモデル(LLM)を訓練するための複製行為について

「②著作物の性質」ではフェアユース成立に否定的な判断がなされましたが、

書籍による本件AIの訓練が「quintessentially transformative(まさに変容的)」であることから「①利用の目的および性質」の観点で肯定的に判断されました。

また、利用された文章の量が目的に関連して合理的であるとして「③利用部分の量と実質性」の観点からも肯定的に判断され、

書籍を学習した本件AIが著作物の正確なコピーや侵害的な模倣品をユーザーに提供することはないという前提事実から「④ 市場への影響(the effect upon the potential market)」についてもフェアユース成立に肯定的な判断がなされました

その結果、訓練のための複製行為はフェアユースと認められました。この判断の核心は、①で極めて変容的であると判断されたことにあります

(2) 中央ライブラリ構築のために、紙の書籍を合法的に購入し、スキャンしてデジタル化し(その後、紙の書籍を破棄し)た行為について

同様に、合法的に購入した書籍をデジタル化して中央ライブラリを構築したことについては、購入した書籍が破棄され、かつ、デジタル化された複製物が再配布されていないという事実を前提に、①肯定、②否定、③肯定、④中立という判断の結果、フェアユースと認められました

(3) 中央ライブラリ構築のために非正規のウェブサイトから書籍データをダウンロードし保持した行為について

他方で裁判所は、非正規のウェブサイトから書籍データをダウンロードし、社内ライブラリとして保持した行為については、①否定、②否定、③否定、④否定と判断してフェアユースの成立を全面的に否定しました。

この際、非正規のウェブサイトからダウンロードした後、事後的に正規の書籍を購入しても責任を免れない旨も付言されています

本判断の意義

現状、日本ではAIによる著作物の利用について、
著作権法30条の4(非享受利用)や47条の5(軽微利用)といった受け皿たる権利制限規定があるものの、
生成AIが広く普及する中で、例えばジブリ風イラストの生成は本当にこれらの規定で処理しきれているのか等、更なる法改正の要否が議論されているところです。かつて、アメリカの事例が日本の著作権法改正の契機をもたらしたように、生成AIについても、日本の法制度に波及することもあるかもしれません。

もっとも、日本とアメリカでは制度が異なりますし、本件判断はあくまでも連邦地裁の1つの判断で、今後、上訴される可能性もあります。また、現在アメリカでは、生成AIによる著作物の利用について数多くの訴訟が係属している状況です。上述のようにフェアユースの規定は個別の事情に基づいて判断されるもので、別の事情の下では別の判断になる可能性もあります。本判決の受け止め方については慎重になる必要があります