物品を売買する際、買主は当然、その物品が一定の品質や性能を備えていることを期待します。もし購入した車がすぐに故障したり、PCが正常に作動しなかったりすれば、その期待は裏切られることになります。アメリカ契約法は、このような買主の正当な期待を保護するため、「担保責任(Warranty)」という制度を設けています。
かつてのコモンローでは「買主危険負担の原則(caveat emptor)」が支配的で、買主は自らの責任で物品の品質を確かめるべきだとされていました。しかし、現代の取引、特に製造者と消費者が直接顔を合わせることのない大量生産・大量消費社会において、この原則はもはや現実的ではありません。そこで、統一商事法典(UCC)は、売主に対して様々な担保責任を課すことで、買主を保護するルールを確立しました。
担保責任とは、売主が買主に対して行う物品の品質・性能等に関する約束や保証のことです。この約束が守られなかった場合、買主は売主に対して契約違反として救済を求めることができます。この章では、UCCが定める主要な3つの担保責任(明示の担保責任、商品適格性の黙示の担保責任、特定目的適合性の黙示の担保責任)と、売主がこれらの責任をいかにして否認(disclaim)できるかについて解説します。
6.1 明示の担保責任(Express Warranties)
明示の担保責任とは、売主が言葉や行動によって自ら作り出す保証のことです。UCC §2-313によれば、売主が「warranty」や「guarantee」といった特定の言葉を使わなくても、また、保証する意図がなくても、以下のいずれかの行為が「取引の基礎(basis of the bargain)」の一部となっていれば、明示の担保責任が発生します。
- 事実に関する断言または約束(Affirmation of fact or promise):売主が物品について具体的な事実を述べたり、特定の性能を約束したりした場合。例えば、「この車は事故歴がありません」「このバッテリーは8時間持ちます」といった発言がこれにあたります 。
- 物品に関する説明(Description of the goods):物品に関する説明は、それが取引の基礎の一部である限り、物品がその説明に合致するという明示の担保責任を生じさせます。
- 見本・モデル(Sample or model):商談中に見本(バルクから抽出したもの)やモデル(現物ではないが同種のもの)を示した場合、実際に引き渡される物品が見本やモデルと一致することについて担保責任を負います。
A. 「事実の断言」と「単なる意見(Puffing)」の区別
ここで重要なのは、「事実の断言」と、単なるセールストークや売主の主観的な意見(Puffing)とを区別することです。売主の単なる意見や商品の推薦は担保責任を構成しません。「この車は素晴らしい走りです」とか「最高の買い物ですよ」といった漠然とした賞賛は、単なる意見とみなされ、担保責任を生じさせません。判断の基準は、その発言が検証可能な具体的な事実に関するものかどうかです。
B. 「取引の基礎」とは
UCCは、これらの断言や説明が「取引の基礎」の一部であることを要求します。これは、かつての法律が要求した厳格な「買主の信頼(reliance)」の要件を緩和したものです。原則として、売主が商談中に行った物品に関する発言は、取引の基礎の一部と推定されます。売主側が、買主がその発言を全く信頼していなかったこと(例えば、買主が独自に専門的な調査を行い、売主の発言を信じていなかったこと)を証明しない限り、担保責任は成立します。
6.2 商品適格性の黙示の担保責任(Implied Warranty of Merchantability)
商品適格性の黙示の担保責任は、明示の担保責任とは異なり、当事者が特に何も言わなくても、法律によって自動的に付与される保証です。UCC §2-314は、「その種の物品を扱う商人(a merchant with respect to goods of that kind)」が物品を販売する場合、その物品に「商品適格性(merchantability)」があることを黙示的に保証すると定めています。
A. 「商人」の要件
この担保責任を負うのは、単に事業を営んでいる者ではなく、「その種の物品を専門的に、継続的に扱っている商人」に限られます。したがって、自動車ディーラーが中古車を販売する場合にはこの責任を負いますが、一般の人が自分の自家用車を友人に売る場合には、この責任は発生しません。
B. 「商品適格性」の意味
では、「商品適格性」とは何でしょうか。UCC §2-314(2)は、その基準として以下の点を挙げていますが、最も重要なのは「その物品の通常の使用目的に適合すること(fit for the ordinary purposes for which such goods are used)」です。
- 通常の使用目的に適合する:例えば、トースターであればパンが焼け、自動車であれば安全に走行できるといった基本的な機能を備えていること
- 同業者の間で異議なく通用する:その商品説明の下で、業界標準レベルの品質を備えていること
- 均質な品質:複数のユニットがある場合、それらの品質や数量が均一であること
- 適切な容器・包装・ラベル:物品が適切に包装され、ラベルの表示内容に適合していること
この担保責任は、物品が完璧であることや買主のあらゆる期待を満たすことを保証するものではありません。あくまで、その種の物品として備えているべき「平均的で通常の品質」を保証するものです。
6.3 特定目的適合性の黙示の担保責任(Implied Warranty of Fitness for a Particular Purpose)
特定目的適合性の黙示の担保責任は、商品適格性よりもさらに特殊な状況で発生する保証です。UCC §2-315によれば、この責任は以下の3つの要件が満たされた場合に発生します。
- 売主が、契約時に、買主がその物品を特別な目的(particular purpose)のために使用しようとしていることを知っているか、または知るべき理由があったこと
- 買主が、その特別な目的に適合する物品を選ぶにあたり、売主の専門的知識や判断に信頼を寄せている(relying on the seller’s skill or judgment)こと
- 売主が、買主がそのように信頼していることを知っているか、又は、知るべき理由があったこと
例えば、ある買主が登山用品店に行き、「今週末に冬の富士山に登るのだが、それに耐えられる靴が欲しい」と告げたとします。店員が特定の登山靴を勧め、買主がそれを購入した場合、たとえその靴が「通常のハイキング」という目的には十分適合する(つまり商品適格性はある)としても、「冬の富士登山」という特別な目的に適合しないのであれば、この担保責任の違反が問われることになります。
この担保責任は、売主が商人であるかどうかを問いません。しかし、買主が売主の専門知識に信頼を寄せることが要件となっているため、実際には専門的な知識を持つ売主が対象となるケースがほとんどです。
6.4 担保責任の否認(Disclaimer of Warranties)
売主は、これらの担保責任を契約によって排除または制限することができます。これを担保責任の否認と呼びます。しかし、買主保護の観点から、その方法にはUCC §2-316によって厳格なルールが定められています。
A. 明示の担保責任の否認
一度発生した明示の担保責任を、契約書中の文言で否定することは非常に困難です。なぜなら、事実の断言と、それを否定する文言は論理的に矛盾するからです。裁判所は、そのような矛盾する条項がある場合、保証を否定する文言よりも、保証を成立させる具体的な断言や説明の方を優先して解釈します。
B. 黙示の担保責任の否認
黙示の担保責任は、特定のルールに従うことで否認が可能です。
- 特定の文言による否認:
- 商品適格性を否認するには、「商品適格性(merchantability)」という言葉を具体的に使わなければなりません 。また、書面で行う場合は、その記載が目立つ(conspicuous)必要があります。
- 特定目的適合性を否認するには、書面かつ目立つ形であれば、「特定の目的に適合するとの保証はない」といった一般的な文言で足ります 。
- 一般的な文言による否認:
「現状有姿(as is)」や「すべての瑕疵を付して(with all faults)」といった、保証がないことを買主に明確に知らせる表現を用いることで、すべての黙示の担保責任を一度に否認することができます。中古車販売などでよく見られる方法です。 - 買主による検査:
買主が契約前に物品を検査したか、あるいは検査する機会があったにもかかわらずそれを拒否した場合、その検査によって発見できたはずの瑕疵については、黙示の担保責任は適用されません。
「目立つ(conspicuous)」とは、合理的な人が気づくべき方法で記載されていることを意味します。例えば、周囲の文字よりも大きなフォントを使ったり、大文字や異なる色で記載したりすることが求められます。契約書の細かい活字の中に紛れ込ませるような形での否認は、無効とされる可能性が高いのです。