3.1 訴訟経済の実現:なぜ併合が必要か
近代的な民事訴訟制度が目指す大きな目標の1つに、訴訟経済(judicial economy)の実現があります。これは、関連する紛争を可能な限り1つの手続でまとめて解決することにより、当事者にとっては訴訟費用の重複を、裁判所にとっては審理時間の浪費を避け、限りある司法資源を効率的に活用しようという考え方です。もし、1つの交通事故から生じた複数の被害者が、それぞれ別々に訴訟を起こし、同じ証人尋問や証拠調べを繰り返さなければならないとすれば、それは極めて非効率な手続になります。
このような問題を解消し、紛争の全体像を1つの法廷で明らかにすることでより公正で矛盾のない解決を図るための制度が「併合(Joinder)」です。併合のルールは、大きく分けて「当事者の併合」と「請求の併合」という2つから構成されます。誰が訴訟に参加できるのか(あるいは参加しなければならないのか)、どのような請求を1つの訴訟の中で主張できるのかを定めるものです。
コモンローの時代、併合のルールは厳格な形式性に縛られ、極めて限定的でした。しかし、衡平法(エクイティ)裁判所がより柔軟な当事者併合を認めた歴史や、その後の法典化運動(コード化)を経て、現代の併合ルール、特に連邦民事訴訟規則に代表されるルールは、非常に広範で柔軟なものへと発展してきました。その根底には、関連する全ての当事者と請求を1つの訴訟に含めることを奨励し、紛争の「蒸し返し」や矛盾した判決のリスクを最小限に抑えたいという強い政策的要請があります。
本章では、まず訴訟に参加する資格を持つ「適切な当事者」とは誰かを定義し、その上で、複数の当事者を訴訟に加えるための「任意的併合」と「強制的併合」のルールを解説します。次に、1人の当事者が複数の請求を主張するためのルールや、被告が原告に反撃するための「反訴」、被告同士が争う「交差請求」といった請求併合の形態を見ていきます。最後に、被告が外部の第三者を訴訟に引き込む「第三者訴訟(インプリーダー)」や、外部の第三者が自らの意思で訴訟に参加する「訴訟参加」といった、よりダイナミックな訴訟の拡大プロセスについて詳述します。これらのルールを理解することは、現代アメリカ訴訟の複雑な構造を把握し、効果的な訴訟戦略を立てる上で不可欠です。
3.2 当事者の併合
(1)適切な当事者とは:実質的利害関係者、訴訟追行能力、当事者適格
そもそも、誰が原告として訴えを提起し、誰が被告として訴えられる資格を持つのでしょうか。併合のルールを検討する以前の前提として、訴訟の「適切な当事者(Proper Party)」であるための3つの要件、すなわち①「実質的利害関係者(Real Party in Interest)」、②「訴訟追行能力(Capacity to Sue or Be Sued)」、③「当事者適格(Standing)」を理解する必要があります。
①実質的利害関係者とは、その訴訟で主張されている請求権を、実体法上有している本人を指します。これは、名義貸しのような形で、実質的な権利関係を持たない者が訴訟の当事者となることを防ぐための要請です。例えば、AがBに対する債権をCに完全に譲渡した場合、その債権の支払いを求める訴訟を提起できるのは、もはやAではなく、譲受人であるC(実質的利害関係者)です。
②訴訟追行能力とは、個人または団体が、法的に独立して訴訟を追行したり、訴えられたりする能力を指します。例えば、未成年者や制限行為能力者は、通常、単独では訴訟追行能力が認められず、法定代理人(後見人など)を通じて訴訟に関与することになります。法人の場合、その訴訟追行能力は、原則としてその法人が設立された州の法律によって決定されます。
③当事者適格は、特に政府の行為や法律の合憲性を争うような公益訴訟において重要な概念であり、原告がその特定の紛争を裁判所に持ち込むに足る、具体的かつ個人的な利害関係を有しているかを問うものです。連邦裁判所における当事者適格の要件は、憲法3条が司法権を「事件または争訟(Cases or Controversies)」に限定していることに由来し、①原告が具体的かつ個別的な「損害(injury in fact)」を被っており、②その損害が被告の行為によって引き起こされ(因果関係)、③裁判所の判決によってその損害が救済される可能性が高いこと、という3つの要素から構成されます。
(2)任意的併合(Permissive Joinder)
複数の原告が共同で1人の被告を訴えたり、1人の原告が複数の被告をまとめて訴えたりする場合、どのような要件が必要でしょうか。これを規律するのが、任意的併合のルールです(連邦民事訴訟規則20条)。
任意的併合が認められるためには、以下の2つの要件を両方とも満たす必要があります。
- 取引・原因(Transaction or Occurrence)の要件: 各当事者に関する請求が、同一の取引・原因、または一連の取引・原因から生じていること。
- 共通の法律上または事実上の問題(Common Question of Law or Fact)の要件: 全ての当事者に共通する、法律上または事実上の問題が、その訴訟に存在すること。
「取引・原因」という言葉は、柔軟に解釈されるべき概念であり、厳密な定義はありません。一般的には、当事者間の論理的な関連性(logical relationship)が重視されます。例えば、1台のバスが起こした事故で負傷した複数の乗客は、同一の「原因」から請求が生じているため、共同原告としてバス会社を訴えることができます。
「共通の問題」の要件も、比較的緩やかに解釈されます。全ての争点が共通している必要はなく、訴訟の中に1つでも重要な共通の法律問題または事実問題が存在すれば足ります。先のバス事故の例で言えば、「バス会社の運転手に過失があったか否か」という事実問題が、全乗客にとっての共通の問題となります。
この2つの要件を満たす場合、当事者は併合することが「できる(permissive)」が、義務ではありません。しかし、裁判所は、併合によって審理が過度に複雑になり、特定の当事者に不利益(prejudice)が生じると判断した場合には、裁量により、請求や当事者を分離して別々に審理(severance or separate trials)することを命じることができます。
(3)強制的併合(Compulsory Joinder):必要当事者と不可欠当事者
任意的併合が当事者の選択に委ねられているのに対し、強制的併合のルール(連邦民事訴訟規則19条)は、特定の第三者が訴訟の行方にとって極めて重要である場合に、その者を訴訟に加えることを裁判所に義務付けるものです。このルールの目的は、訴訟に関与していない第三者の利益が不当に害されたり、あるいは訴訟の当事者が、将来、同一の紛争について再び訴訟を提起されるという二重のリスクに晒されたりすることを防ぎ、1回の訴訟で紛争の完全かつ最終的な解決を図ることにあります。
このルールは、併合すべき第三者を2つのカテゴリーに分類します。
- 必要的当事者(Necessary Parties): 以下のいずれかの条件を満たす第三者は、「併合されるべき者(persons to be joined if feasible)」、すなわち「必要的当事者」とみなされます。
- その者が不在のままでは、既存の当事者間で完全な救済を与えることができない。
- その者が訴訟に関連する利益を有しており、その者が不在のまま判決が下されると、(i)その者の利益が事実上害される、または、(ii)既存の当事者(特に被告)が多重の若しくは矛盾した義務を負う実質的なリスクに晒される。
- 不可欠当事者(Indispensable Parties): 必要当事者の併合が「実行不可能」である場合、裁判所は次に、「衡平と良心に照らして(in equity and good conscience)」、その必要的当事者が不在のまま訴訟を進行させるべきか、それとも訴訟全体を却下すべきかを判断しなければなりません。この判断の結果、その者の不在が訴訟の進行を許さないほど重大であるとみなされる場合、その者は「不可欠当事者」 と呼ばれます。 裁判所がこの「衡平と良心」に基づく判断を行うにあたり、規則19条(b)項は、以下の4つの要素を考慮すべきであると定めています。
- 判決が、不在の第三者または既存の当事者に与える不利益の程度。
- 判決の内容を工夫したり、保護的な規定を設けたりすることで、その不利益を軽減または回避できる可能性。
- 不在のまま判決を下すことが、妥当なものとなるか否か。
- 原告が、もし訴えが却下された場合に、他の裁判所で妥当な救済を得ることができるか否か。
この分析は、画一的なルールを適用するのではなく、事案ごとの具体的な事情を総合的に考慮する、極めて実用主義的なアプローチを要求します。Provident Tradesmens Bank & Trust Co. v. Patterson(1968年)で最高裁が示したように、この判断は、当事者の分類という形式論ではなく、訴訟の現実的な効果と、関係者全員の利益をいかに調整するかという観点から行われなければなりません。
3.3 請求の併合
(1)一般的な請求の併合
当事者の併合ルールが、訴訟の「幅」を広げるものであるとすれば、請求の併合ルールは、その「深さ」を規定するものです。連邦民事訴訟規則18条(a)項が定める一般的な請求の併合ルールは、極めて寛大です。すなわち、「ある当事者は、相手方当事者に対し、有する全ての請求を、それが独立したものであろうと、代替的なものであろうと、また、法律上、衡平法上、または海事法上のものであろうと、併合することができます」。
このルールには、任意的当事者併合のような「同一の取引・原因」といった要件は一切ありません。一度、当事者間の関係が訴訟の場で形成されれば、原告は、被告に対して有する全く無関係な複数の請求(例えば、交通事故による損害賠償請求と、それとは全く別の貸金返還請求)を、1つの訴訟でまとめて主張することができます。もちろん、裁判所は、無関係な請求が併合されることで審理が混乱すると判断すれば、裁量でそれらを分離して別個に審理することを命じることができます。
(2)反訴(Counterclaim)
前章で触れたように、被告が原告に対して提起する請求が反訴です(連邦民事訴訟規則13条)。強制的反訴と任意的反訴の区別は、請求の併合において最も重要な概念の一つです。
強制的反訴は、被告の請求が原告の請求と「同一の取引・原因」から生じている場合に成立します。この要件を満たす請求は、必ず答弁書の中で反訴として主張しなければならず、もし主張しなければ、その請求権は原則として失われます(これを「請求の遮断(claim preclusion)」または「禁反言(estoppel)」と捉えるかは議論があります)。このルールの厳格さは、関連紛争の一回的解決という訴訟経済の要請を強く反映したものです。
任意的反訴は、原告の請求とは関連性のない請求であり、被告はこれを現在の訴訟で主張するか、あるいは別の訴訟として提起するかを自由に選択できます。
(3)交差請求(Crossclaim)
ある当事者が、同じ側の他の当事者(例えば、共同被告の一方が他の共同被告)に対して行う請求が交差請求です(連邦民事訴訟規則13条(g)項)。交差請求は、反訴とは異なり、常に任意的です。しかし、交差請求が認められるためには、その請求が、元の訴訟の主題である「取引・原因」から生じているか、その主題に関連する財産に関するものである必要があります。
3.4 特殊な併合手続
(1)第三者訴訟(Impleader)
被告が、原告から訴えられている請求について、「もし自分が原告に賠償責任を負うのであれば、その責任の全部または一部は、別の第三者が自分に対して負うべきだ」と考える場合があります。例えば、小売店が消費者から製造物責任で訴えられた場合、小売店は「もし欠陥があったとすれば、その責任は製造元にある」と主張したいでしょう。このような場合に、被告(「第三者原告(third-party plaintiff)」)が、その第三者(「第三者被告(third-party defendant)」)を、同一の訴訟に引き込むための手続が、第三者訴訟(インプリーダー)です(連邦民事訴訟規則14条)。
インプリーダーが認められるのは、第三者被告の責任が、元の原告・被告間の請求の成否に依存(derivative)している場合に限られます。典型的な例は、補償(indemnification) や求償(contribution) の関係にある場合です。被告が、単に「犯人は私ではなく、あの第三者だ」と主張するだけでは、インプリーダーの要件を満たしません。
一度、第三者被告が訴訟に加わると、訴訟関係はさらに複雑化します。元の原告は、第三者被告に対して直接請求を主張できますし、第三者被告も、元の原告や第三者原告に対して、反訴や交差請求を主張することができます。
(2)訴訟参加(Intervention)
訴訟参加とは、訴訟の当事者ではない外部の第三者(「参加人(intervenor)」)が、自らの利益を守るために、自発的に進行中の訴訟に加わることを求める手続です(連邦民事訴訟規則24条)。
訴訟参加には、権利による参加(Intervention of Right) と許容的参加(Permissive Intervention) の二種類があります。
権利による参加は、以下の要件を満たす場合に、裁判所が参加を許可しなければならないものです。
- 参加人が、訴訟の主題である財産または取引について利益(interest) を有していること。
- 参加人が不在のまま訴訟が進行すると、その者の利益が事実上害される(practically impair or impede) おそれがあること。
- 既存の当事者によって、参加人の利益が十分に代表されていない(not adequately represented) こと。
この「利益」は、法的に保護された直接的なものである必要があり、単なる経済的な関心や一般的な関心では不十分とされることが多いです。また、「事実上害される」かどうかの判断では、判決の先例的効力(stare decisis)による事実上の影響も考慮されます。
許容的参加は、参加人の請求または抗弁と、元の訴訟との間に共通の法律上または事実上の問題が存在する場合に、裁判所が裁量で参加を許可できるものです。裁判所は、参加を許可することによる審理の遅延や、既存の当事者への不利益を考慮して、その可否を判断します。
併合のルールは、一見すると複雑で技術的にみえるかもしれません。しかし、その根底にあるのは、現代社会の複雑な紛争を、いかにして一つの手続の中で、関係者全員にとって公正かつ効率的に解決するか、という極めて実用的な要請です。