第3章 捜索・差押え・逮捕(修正4条)

アメリカの刑事手続において、警察などの捜査機関と市民との最初の接点となるのが、捜索・差押え・逮捕です。これらの権力行使は、個人の自由とプライバシーに最も直接的な影響を及ぼすため、合衆国憲法修正4条によって厳格な規律の下に置かれています。

1. 修正4条の保護範囲

修正4条は、その条文で「人民が、その身体・家屋・書類・所持品について、不合理な捜索・差押えを受けない権利」を保障しています。この条文の核心は、「不合理な(unreasonable)」という言葉にあります。問題は、いかなる政府の行為が、この憲法上の保護を発動させる「捜索(search)」または「差押え(seizure)」に該当するのか、という点です。

(1) 「プライバシーに対する合理的な期待」(Katzテスト)

当初、最高裁判所は、修正4条の保護を物理的な侵入と結びつけて考えていました。政府による物理的な「不法侵入(trespass)」がなければ、「捜索」は行われていないとされました。しかし、電子的な監視技術の発達に伴い、この伝統的な解釈は時代遅れとなります。

この転換を決定づけたのが、Katz v. United States(1967年)判決です。この事件で、連邦捜査官は、公衆電話ボックスの外側に盗聴器を設置し、被告人の通話を傍受しました。物理的な侵入はありませんでしたが、最高裁判所はこれを違憲な捜索と判断しました。ハーラン判事の補足意見で定式化され、今日に至るまで支配的な基準となっているのが、いわゆる「Katzテスト」です。これによれば、ある政府の行為が修正4条上の「捜索」に該当するかは、以下の2つの要件を満たすかによって判断されます。

  1. 主観的要件: その個人が、プライバシーに対する期待を表明していること。
  2. 客観的要件: その期待が、社会が「合理的(reasonable)」なものとして承認すべきものであること。

この判決により、修正4条は「場所ではなく、人を保護する」という原則が確立されました。個人の自宅が最も神聖なプライバシーの領域であることに変わりはありませんが、公衆電話ボックスのような場所であっても、人が社会的に正当と認められるプライバシーへの期待を抱く限り、憲法上の保護が及ぶのです。逆に、自宅の庭に放置され、誰でも見ることができるゴミ袋の中身や、公衆の往来から見える「オープン・フィールド」については、合理的なプライバシーの期待は認められず、警察がそれを調べても「捜索」にはあたらないとされます。

近年の技術革新は、このKatzテストに新たな課題を突きつけています。例えば、警察が令状なく被告人の自宅に熱画像装置を向けて内部の熱分布を調査したKyllo v. United States(2001年)事件では、一般には使用されていない技術を用いて、通常は内部に入らなければ得られない情報を取得したとして「捜索」に該当すると判断されました。また、令状なく個人の車にGPS追跡装置を取り付けて長期間監視する行為も、物理的な不法侵入を伴う情報収集として「捜索」にあたるとされています(United States v. Jones, 2012年)。

2. 令状主義の原則

修正4条は、捜索・差押えが「不合理」であってはならないと定めます。そして、その合理性を担保するための手続として、裁判官が発付する令状(warrant)を原則としています。令状に基づく捜索は原則として「合理的」と推定され、令状に基づかない捜索は「原則として不合理(per se unreasonable)」とされます。令状が有効であるためには、以下の3つの要件を満たさなければなりません。

(1) 「相当な理由(Probable Cause)」

令状発付の最も実質的な要件が「Probable Cause」です。これは、単なる疑いや憶測以上の、客観的な事実に基づく合理的な根拠を意味します。

  • 逮捕令状の場合: 特定の人物が犯罪を犯したと信じるに足る相当な理由。
  • 捜索令状の場合: 捜索対象の場所に、犯罪の証拠や禁制品が存在すると信じるに足る相当な理由。

この判断は、宣誓供述書(affidavit)に記載された情報を基に、「全体的事情(totality of the circumstances)」を総合的に考慮して行われます。これは、Illinois v. Gates(1983年)判決で確立された基準であり、情報提供者(informant)からの情報を用いる場合、その「信頼性(veracity)」や「知識の根拠(basis of knowledge)」は重要な要素ではありますが、絶対的な要件ではなく、他の事情と合わせて総合的に判断されます。

(2) 宣誓・確約(Oath or Affirmation)

令状の基礎となる情報は、警察官が真実であることを宣誓・確約したものでなければなりません。これは、無責任な告発を防ぎ、情報の信頼性を担保するための手続的保障です。

(3) 特定性(Particularity)

令状は、「捜索すべき場所」や「差押えるべき人・物」を「特定して記載」しなければなりません。これは、捜査機関に白紙委任状を与え、一般的な探索的捜索(general, exploratory rummaging)を禁じるための、極めて重要な要件です。捜索場所の記述は他の場所と区別できる程度に具体的でなければならず、差押えるべき物もその種類や特徴が明確に示されていなければなりません。

3. 令状主義の例外

令状主義は修正4条の原則ですが、実務上はむしろ「例外」の方が圧倒的に多く適用されています。最高裁判所は、捜査の緊急性や実効性、個人のプライバシーの利益の程度を比較衡量し、特定の状況下では令状なくして行われる捜索・差押えも「合理的」であるとして、数多くの例外を認めてきました。

(1) 逮捕に伴う捜索(Search Incident to Lawful Arrest, SILA)

適法な逮捕を行う際、警察官は令状なくして逮捕者の身体及びその「直接の支配が及ぶ範囲(area within his immediate control)」を捜索することができます。この捜索の目的は、①警察官の安全を脅かす武器の発見及び②証拠隠滅の防止にあります。この「支配が及ぶ範囲」とは、一般に逮捕者が手を伸ばせば届く範囲(wingspan)と解されてきました。
自動車の車内捜索に関しては、Arizona v. Gant(2009年)判決がこのルールを明確化しました。同判決によれば、逮捕に伴い車内を捜索できるのは、①逮捕者が逮捕時に車内の乗員スペースに届く範囲内にいる場合又は②逮捕容疑となった犯罪の証拠がその車内にあると信じるに足る理由がある場合のいずれかに限定されます。

(2) 自動車の例外(Automobile Exception)

自動車は、その機動性の高さゆえに、証拠と共に容易に移動させられてしまう危険があります。この固有の性質から、警察官が自動車内に犯罪の証拠があると信じるに足る「相当な理由」を持つ場合には、令状なくしてその自動車を捜索することが許されます。この例外は、自動車のトランクや車内のコンテナなど、証拠が隠されている可能性のある全ての場所に及びます。

(3) プレイン・ビュー(Plain View Doctrine)

令状執行中や同意を得た立入り、公道上等、警察官が適法に捜査している際、そこから「明白に(immediately apparent)」犯罪の証拠や禁制品であると認識できる物を発見したときは、令状なくしてそれを差押えることができます。この法理は、警察官が発見するために新たなプライバシー侵害を伴わないという点に根拠があります。

(4) 同意捜索(Consent Searches)

個人が自発的に捜索に同意した場合、令状や「相当な理由」なしに捜索を行うことができます。同意が有効であるためには、政府による強制や脅迫の結果ではなく、「全体的事情」に照らして「任意に(voluntarily)」なされたものでなければなりません。警察官は、同意を求める際に捜索を拒否する権利があることを告知する義務はありません。また、アパートの同居人など、対象場所に対する共通の権限を持つ第三者からの同意も、原則として有効とされます。

(5) ストップ・アンド・フリスク(Stop and Frisk)

Terry v. Ohio(1968年)判決によって確立されたこの法理は、「相当な理由」よりも低いレベルの嫌疑に基づく捜査活動を認めるものです。

  • ストップ(Stop): 警察官が、「合理的で明確に説明しうる嫌疑(reasonable, articulable suspicion)」に基づき、犯罪活動が行われようとしている又は行われたと信じる場合、その人物を呼び止め、質問することができます。
  • フリスク(Frisk): 呼び止めた相手が「武器を携帯し危険である」と信じるに足る合理的な嫌疑がある場合、警察官は自己及び周囲の安全を確保するため、その人物の衣服の外側を軽く叩いて(pat-down)、武器の有無を確認することができます。これはあくまで武器発見を目的とした保護的な捜索であり、一般的な証拠収集のための捜索ではありません。

(6) 緊急事態(Exigent Circumstances)

証拠隠滅されかかっている場合や被疑者の逃走、人の生命・身体に対する危険など、令状を取得する時間的余裕がない緊急の状況下では、令状なき捜索や家屋への立入りが正当化されます。例えば、警察が被疑者を追跡して家の中に逃げ込んだ場合(熱心な追跡、Hot Pursuit)、令状なくその家に入り、被疑者を逮捕し、関連する証拠を確保することが許されます。

(7) 規制的捜索と行政検査(Regulatory and Administrative Searches)

飲酒運転の検問、空港での保安検査、国境における検査、公立学校における生徒の所持品検査など、通常の犯罪捜査とは異なる、特別な行政目的のために行われる捜索があります。これらの捜索は「special needs」ドクトリンに基づき、令状や「相当な理由」を必要とせず、政府の利益と個人のプライバシー利益との比較衡量によってその合理性が判断されます。

4. 逮捕(Arrest)

逮捕もまた、修正4条が規律する「差押え」の一種です。

  • 公衆の面前での逮捕: 警察官が、ある人物が重罪(felony)を犯したと信じるに足る「相当な理由」を持つ場合、令状なくして公衆の面前でその人物を逮捕することができます。
  • 家屋内での逮捕: 被告人の自宅で日常的な逮捕を行うためには、原則として逮捕令状(arrest warrant)が必要となります(Payton v. New York, 1980年)。これは、個人の住居におけるプライバシーの利益が特に高く評価されているためです。

修正4条の法理は、個人のプライバシー権という憲法上の価値と、社会の安全を維持するという政府の責務との間の緊張関係を反映しています。この条項に違反して得られた証拠の処遇、すなわち「違法収集証拠排除法則」が、修正4条の保障を実効的なものとするための重要な鍵となります。