有罪の評決又は有罪答弁によって被告人の罪が確定した後、刑事手続は量刑(Sentencing)へと移行します。この段階で、裁判所は、社会の応報感情、将来の犯罪抑止、危険な犯罪者の隔離、被告人の更生という複数の目的を衡量しながら、個々の被告人に科されるべき具体的な刑罰を決定します。かつては裁判官の広範な裁量に委ねられていたこのプロセスは、20世紀後半以降、量刑ガイドラインの導入や憲法上の新たな要請によって、劇的な変貌を遂げました。本章では、この現代アメリカの量刑制度について、その目的と構造の変遷をたどり、量刑実務を規律する量刑ガイドラインの役割を分析し、デュー・プロセスや陪審の権利といった憲法上の原則が量刑手続にいかに影響を及ぼすのかについて解説します。
1. 量刑の目的と構造
量刑判断の背後には、伝統的に4つの主要な目的が存在するとされています。
- 応報(Retribution): 犯された罪の重さに見合った害悪を与えることで、正義を実現しようとする目的です。「目には目を」という考え方に通じます。
- 抑止(Deterrence): 被告人を処罰することで、本人による再犯(特別予防)および一般市民による同様の犯罪を防ぐこと(一般予防)を目指します。
- 無力化(Incapacitation): 危険な犯罪者を社会から物理的に隔離することで、彼らが新たな犯罪を犯すことを不可能にします。
- 更生(Rehabilitation): 被告人を教育し、治療することで、法を遵守する市民として社会復帰させることを目指します。
これらの目的のどれを重視するかによって、量刑制度の構造は大きく異なります。歴史的に、アメリカの量刑制度は、2つの異なるモデルの間を揺れ動いてきました。
- 不定期刑(Indeterminate Sentencing): 20世紀半ばまで主流であったこのモデルは、「更生」の理念を重視します。法律は、例えば「5年から20年」といった非常に広い刑期の幅を定めるのみで、裁判官はその範囲内で刑を宣告します。そして、実際に被告人がいつ釈放されるかは、刑務所での態度や更生の進捗状況を評価する仮釈放委員会(Parole Board)の裁量に委ねられます。この制度は、個々の被告人の状況に応じた柔軟な対応を可能にしますが、裁判官や仮釈放委員会の裁量が大きすぎ、処遇に不均衡が生じやすいという批判がありました。
- 定期刑(Determinate Sentencing): 1970年代以降、犯罪率の上昇と更生モデルへの幻滅を背景に、多くの法域がこちらのモデルへと移行しました。応報と抑止を重視し、より確実で均衡の取れた量刑を目指します。このモデルでは、法律がより具体的な刑期を定めたり(例:「7年の懲役」)、裁判官の裁量を制限するための量刑ガイドラインや義務的最小刑(mandatory minimum sentences)を導入したりします。仮釈放は廃止又は制限され、受刑者は宣告された刑期の大部分を服役することになります。
2. 量刑ガイドライン(連邦と州)
定期刑への移行に伴い、裁判官の裁量を構造化し、量刑の不均衡を是正するための最も重要なツールとして登場したのが、量刑ガイドライン(Sentencing Guidelines)です。その最も影響力のある例が、1987年に導入された連邦量刑ガイドラインです。
このガイドラインは、被告が犯した罪の重大さ(犯罪レベル、Offense Level)と被告人の過去の犯罪歴(犯罪経歴カテゴリー、Criminal History Category)という2つの軸を組み合わせた表を用います。裁判官は、まず犯罪の基本レベルを特定し、被害者の脆弱性、武器の使用、リーダーとしての役割といった様々な加重事由・減軽事由を考慮して最終的な犯罪の重さを算出します。次に、過去の有罪判決を点数化して犯罪経歴カテゴリーを決定します。この2つの座標が交差するマスが、その被告人に推奨される刑期の範囲(例えば「51ヶ月から63ヶ月」)を示します。
当初、この連邦量刑ガイドラインは義務的(mandatory)なものであり、裁判官は、極めて例外的な事情がない限り、ガイドラインが示す刑期範囲内で量刑を宣告することが求められました。しかし、この義務的な制度は、後に最高裁判所によって重大な憲法上の挑戦を受けることになります。
3. 量刑手続とデュー・プロセス
公判とは異なり、量刑段階では、対面権や反対尋問権といった憲法上の手続的保障の多くは適用されません。量刑における被告人の権利を保障する主要な源泉は、デュー・プロセス条項です。
(1) 量刑判断の基礎となる情報
デュー・プロセスは、被告人が、自らに不利な情報に対して反論する機会を持つことを要求します。しかし、裁判官が量刑判断の際に考慮できる情報の範囲は極めて広いです。裁判官は、公判では許容されない伝聞証拠や、被告人の性格・経歴・家庭環境、不起訴となった行為や無罪となった訴因に関する証拠さえも、量刑判断の資料とすることができます。このための重要な情報源となるのが、保護観察官が作成する公判前捜査報告書(Presentence Investigation Report, PSR)であり、被告人にはこの報告書の内容を精査し、不正確な情報に異議を唱える機会が与えられます。
(2) 事実認定と陪審の役割(Apprendiルール)
現代の量刑法理における最も重要な発展が、陪審の役割に関する一連の最高裁判決です。この革命の出発点となったのが、Apprendi v. New Jersey(2000年)判決でした。この判決で、最高裁判所は以下の画期的なルールを確立しました。
「既決の犯罪事実(the fact of a prior conviction)を除き、法律が定める犯罪の法定上限刑(statutory maximum)を超える刑罰を被告人に科す根拠となるいかなる事実も、陪審によって認定され、かつ、合理的な疑いを超える程度で証明されなければならない。」
つまり、量刑を加重する「量刑因子(sentencing factor)」であっても、それが法定上限刑を引き上げる効果を持つならば、もはや単なる量刑の問題ではなく犯罪の「構成要件(element)」として扱われ、陪審による事実認定と厳格な証明責任の対象となるというものです。
この「Apprendiルール」は、その後の判決でさらに発展しました。
- Blakely v. Washington (2004年): このルールを州の義務的な量刑ガイドラインに適用しました。裁判官が、陪審が認定した事実だけでは正当化されないより長期の刑期を適用するために、追加の事実(例えば「意図的な残虐性」)を自ら認定することは、修正6条の陪審裁判を受ける権利を侵害すると判示しました。
- United States v. Booker (2005年): Blakelyの論理を連邦量刑ガイドラインに適用し、その義務的な性質を違憲と判断しました。しかし、最高裁判所は、ガイドライン全体を無効にするのではなく、それを勧告的(advisory)なものへと変更するという救済策を選択しました。これにより、連邦裁判官は、ガイドラインを量刑判断の出発点として考慮する義務はあるものの、それに法的に拘束されることはなくなり、事件の個別的な事情を考慮してガイドラインから逸脱した量刑(variance)を科す裁量を回復しました。
4. 量刑決定権限の配分
現代の量刑制度では、刑罰を決定する権限は、複数の主体に配分されています。
- 裁判官: 死刑事件を除く殆ど全ての事件において、最終的な量刑を宣告する中心的な役割を担います。Booker判決以降、その裁量は再び重要性を増しています。
- 陪審: Apprendiルールにより、法定上限刑を引き上げる事実の認定者としての役割が確立されました。特に死刑事件においては、陪審が、死刑を科すための前提となる加重事情(aggravating factors)の存否を認定するという、決定的に重要な役割を担います。
- 行政機関: 不定期刑を採用する州では、仮釈放委員会が依然として受刑者の実際の服役期間を決定する大きな権限を持ちます。また、大統領や州知事といった行政府の長は、恩赦(pardon)や減刑(commutation)といった恩赦権(clemency power)を行使し、司法が下した量刑判断を最終的に変更する権限を有します。
量刑は、個人の自由を奪うという国家の最も重大な権力行使の一つです。そのプロセスは、法律による構造化、憲法による手続的保障、そして関係する各主体の裁量という3つの要素が複雑に絡み合いながら、個々の事件における「公正な罰」とは何かという、永遠の問いに答えようと試みているのです。