アメリカの刑事裁判手続

アメリカ合衆国において、被告人と国家が対峙するプロセスは、合衆国憲法によって保障された権利及び連邦・各州が定める多くの法規によって厳格に規律されています。

アメリカの刑事手続を理解する上で最も重要な特徴は、その二元的な構造にあります。合衆国という1つの国家でありながら、そこには連邦政府の司法制度に加えて、50の州+コロンビア特別区(D.C.)が擁する合計52の司法制度が併存しています。これらの法域は、合衆国憲法という共通の土台の上に立ちつつも、独自の憲法・制定法・裁判所規則・判例法を擁します。例えば、ある州では大陪審による起訴が義務付けられていても、別の州では検察官による略式起訴が一般的であるなど、具体的な運用は一様ではありません。

本稿は、アメリカ刑事手続の全体像を俯瞰できるよう、以下の5つの編で構成されています。

  • 第1編「序論」では、刑事司法プロセスの全体像を概観し、連邦と州の二元構造、そして手続を規律する憲法や法律といった法源について解説します。
  • 第2編「捜査と証拠収集」では、修正4条が保障する捜索・差押えの原則から、ミランダ準則に代表される取調べの規律、おとり捜査、電子的監視に至るまで、近代的な捜査手法とその法的限界を詳述します。
  • 第3編「訴追の開始と公判前手続」では、弁護人依頼権の保障、保釈制度、検察官による訴追裁量、答弁取引(司法取引)といった、公判に至るまでの重要なステップを扱います。
  • 第4編「公判手続」では、アメリカ刑事司法の核心である陪審裁判に焦点を当て、陪審員の選任過程から、証人の対面権、二重の危険の禁止といった公判における被告人の権利、そして評決に至るまでの流れを追います。
  • 第5編「量刑、上訴、事後救済」では、有罪判決後の量刑手続、上訴審における審査、そして人身保護令状をはじめとする最終判決後の救済制度について解説します。

第1編 序論:アメリカ刑事裁判制度の枠組み

第1章 刑事裁判プロセスの概要と法源

第2章 刑事手続と合衆国憲法

第2編 捜査と証拠収集

第3章 捜索・差押え・逮捕(修正4条)

第4章 取調べと自白

第5章 その他の捜査手法と規制

第6章 大陪審による捜査

第7章 違法収集証拠排除法則(Exclusionary Rule)

第3編 訴追の開始と公判前手続

第8章 弁護人の援助を受ける権利

第9章 公判前の身柄拘束と保釈

第10章 訴追の決定と審査手続

第11章 公判準備に関する諸手続

第12章 Plea Bargainingと有罪答弁

第4編 公判手続

第13章 陪審裁判と陪審員の選任

第14章 公正な裁判と公判の進行

第15章 二重の危険(Double Jeopardy)

第5編 量刑、上訴、事後救済

第16章 量刑(Sentencing)

第17章 上訴(Appeals)

第18章 事後救済(Post-Conviction Review)