ロシアには最近まで「弁護士代理の原則」がなかった

 日本で裁判所に訴えを提起するとき、手続は基本的に民事訴訟法に基づき進行していきます。ロシアでも裁判所に訴えを提起する際、同様に裁判所の手続を規定した法律が存在します。もっとも、日本まであまり浸透していない情報ですが、実はロシアの裁判所での手続は2019年10月1日施行の改正により大きな変更が加えられました。
 そこで、今回は、ロシアで裁判になったときに役立つ、昨年から変更になった点のポイントをいくつか紹介したいと思います。

日本における弁護士代理の原則

 まず、日本においては、裁判をする際、訴訟代理人となれるのは原則として弁護士のみです。もちろん、簡易裁判所に対する訴え提起であれば、弁護士でない者を訴訟代理人として選任することは可能ですが、このような細かい例外を除き、大原則として弁護士のみが訴訟代理人となることができます。これは、弁護士代理の原則の表れといえます。

ロシアにおける弁護士代理の原則の導入

 これに対し、実はロシアでは、2019年10月1日の改正前は、誰でも代理権を与えられた者は、裁判所で訴訟代理人としての役目を果たすことができました。もっとも、あまり裁判所の手続を知らない者が訴訟代理人となっても、裁判所での手続進行を難航させる場面が多かったからか、2019年10月1日施行の改正により、弁護士(あるいは一定の学位をもった法学者)以外の者が訴訟代理人となることは、仲裁裁判所(商事裁判所)や連邦レベルの裁判所においては禁止されました。

裁判官の除斥・忌避に関する日本とロシアの比較

 また、日本においては、裁判官が当事者と一定の近接な関係(例えば、当事者の配偶者や当事者の四親等以内の血族など)にあったりするなどして、事件に関して手続の公正さを失わせる可能性がある者に該当する場合に、当事者はかかる裁判官を事件から排除する手続、つまり除斥、忌避をすることができます。
 ロシアでもこのような除斥、忌避の手続は存在するのですが、2019年10月1日の改正前は、除斥・忌避の対象となった裁判官自身ではなく、その裁判官の裁判長(あるいは代理裁判長)が除斥・忌避をするかの判断をしていました。もっとも、2019年10月1日施行の改正により、除斥、忌避の対象となっている裁判官自身が除斥・忌避をするかの判断をすることとなりました。つまり、より一層、除斥・忌避が認められにくくなったということです。

弁護士費用に関する比較

 弁護士費用に関して、日本では当事者負担が原則(例外として最判昭和44年2月27日最高裁第一小法廷判決民集23巻2号441頁は、不法行為に基づく損害賠償請求ついて、相当範囲の費用につき請求可能)で、別途弁護士費用を相手方に請求することは基本的にありません。

 もっとも、ロシアでは弁護士費用が後日問題となることはよくあります。これは、訴えの提起段階ではなく、実際に訴訟に勝訴してから訴訟費用を相手方に請求するケースが多いからです。2019年10月1日施行の改正前までは、この弁護士費用の請求は訴訟が終わってから2~3年以内に訴えを提起すれば、相手方に請求ができる取扱いとなっていましたが、2019年10月1日施行の改正により、一律、訴訟が終わってから3か月以内に訴えを提起する必要が規定されたので、気を付ける必要があります。

ロシアにおける、被告に関する要件の厳格化

 また、ロシアでは今まで、訴えを提起する際、被告に関する情報としては氏名および住所を示せば十分でした。もっとも、2019年10月1日施行の改正により、被告に関する情報として、さらにパスポートなどの書類を添付することが義務付けられました。裁判になってから、これらの書類を手に入れることは困難なので、特に個人と契約を締結する際には、後で裁判に行くことも視野に入れて、契約締結時点で契約の相手方となる者のパスポート等の情報を入手しておくことが重要となってきます。

参考